百年の家。

『百年の家』
絵 ロベルト・インノチェンティ
作 J.パトリック・ルイス
長田弘


ブリューゲルの絵を思わせるような贅沢な表紙と「百年の家」というタイトル。

そのときどういうわけか「家」というものに意識が向いていて、この本を目にした途端、気づいたら本屋さんで立ち止まってしまっていた。
この絵本では、17世紀に作られた一軒の家が、20世紀のはじめに子どもたちによって見つけられ、ふたたびひとびとと過ごすことになる百年のあいだに起きるできごとを、家による一人称で綴られている。
そのあいだ、家はふたつの戦争を経験し(文中の「千の太陽がきらめく戦争」という言葉がとても印象的だ)、さまざまなひとびとや家族がそこで身体を休め、生活を営み、新たな命の誕生、そして死を経験していく。そのとてつもなく大きな時間の流れが、丁寧な言葉と絵によって描かれ、なんだかとても大きな河の流れを見ているような、自分の手には追えない膨大ななにかを目の当たりにしているような気持ちにさせられる。
なかなかアパート暮らしから離れられそうにもないぼくにとって、「家」というのはひとつの象徴のように、こころのなかで少しずつ意味をもちはじめていることばのひとつだった。とても漠然としてはいるものの、どういうわけか帰りたくなるような、そんな気持ちとしての「家」。
それは実際の屋根や扉、窓がなくても、安心してそこを身を横たえることができるような、そんな気持ちはんだろうなと思う。この本のページをめくるたびに、「家」に対する憧れの気持ちがふたたび蘇ってくる。この絵本の中で、最初に家を見つけた子どもたちのように。
堀合俊博