しあわせということ。

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福福と
ふくらんだ身体を
ゆらして


かわいい
おじさんが


隠れ家の扉を開けた。


只者ではないな。



すぐ感じたが


まあ
よくあることなので
ふつうに接客をする。



帰り際に


僕、本のデザインしてるんだ。
と、言って


死んだ
わたしの親友の本を
買ってくれた。




それ以来
道で会うと


近寄ってきてくれて
ずっと友だちだった人みたいに
話しかけてきてくれていた。




本というものは
装丁がうつくしければ
中身と関係なく欲しくなるものだ。


うつくしい本は
それを所有する人を
しあわせにする。




坂川さんが
死んじゃった。



聴いたのは


最後に会って
しばらくしてからだった。


本人自身の
見た目が


福福とした
装丁をしたおじさんだったから


おじさんを思い出すだけで
しあわせな気持ちになってしまい



なんだか
まったく
涙がでない。


隠れ家の中にある
坂川さんが装丁した本たちも


佇まい
うつくしく


しあわせそうに
そこに
存在している。


歩いて10分の
坂川事務所で回顧展が
開催されている。



坂川さんが死んだことを
たしかめにゆくことも
できるのだけれど


たしかめないほうが
しあわせな気がして


行かないでいる。

本日の1冊

本の顔
坂川栄治+坂川事務所