とおいところへいきたいな。

「とおいところへいきたいな」


モーリス・センダック


訳 神宮輝夫


冨山房



ここではないどこかを探すのをやめることは、もしかしたら難しいことなのかもしれない。


可能性というのはそこかしこに幽霊のように浮かんでは消え、気づけばあちら側の世界に連れて行かれてしまいそうになるのことはよくありそうなものだ。それでもここにい続けていることに、納得のいく答えを見出せるひともそうはいないのだろう。


「とおいところへいきたいな」のマーチンと動物たちのように、誰もが「この まちを ぐるぐる まわって、かどから ふたつめの ちかしつ」を見つけることができれば、随分と生きるのが楽になるというものだ。だってその「とおいところ」に「1じかんはん」もいれば、「とおいところ」になんているもんじゃないということがわかるはずなのだから。


「とおいところ」に行きたいひとを見つけたら、この本を渡してみようと思う。もしそのひとが「とおいところ」から戻って来たマーチンの迷いのない足取りに心を動かされたなら、きっともう大丈夫。それでもまだ、ここではないどこかの話をはじめたのなら、ぼくはそのひとの「1じかんはん」が早く過ぎるようにそっと願うしかない。




堀合俊博