陰翳礼讃

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台所の蛍光灯が
天命を全うするのを
まっていたのだが


なかなか
終わりが見えない。


料理をするのに
手元が暗い。


まだ
光っているに


新しいものに変えるのは
弱ってる老人を無理やり殺すような


違和感があるのだが
仕方なく


死んでいただき
新しい命に変えた。


たちまち
蛍光灯はものすごい勢いで
台所を照らす。


ギョッとするくらい
野菜も玉子も生々しく見えて


いろんな意味で
あからさまな下品さが
否めない。


陰翳礼讃。


目に見えないくらいが
不完全でちょうどよく幻想が見える。


料理は
いのちを頂くための


神聖な儀式だとしたら


その卑劣さを
和らげるため



蝋燭の灯りとか
ランプの下で
ゆっくり行いたい。


光と影。
生と死。


ちがうようで
おんなじようなものだけど


どっちかだけじゃ
世界は成り立たない。


私は
暗いほうが好き。


ギラギラと
蛍光灯に照らされながら


そう
呟き


今日も
料理をする。



谷崎潤一郎『陰翳礼讃』

■LEDだけど じんわり優しい灯