経験と記憶。

高校生だった頃
写真を撮っていた。


大人になる前の
微妙な心のうごき


校舎の廊下に
さしこむ夕日のひかり


校庭の野球部の音


放課後の女子の声


制服のスカートが
ゆれる音


もう二度と
戻れない感覚と記憶。


全部
写真に写したい


全部
写真に引っ越しさせて
わすれたくない



思った。






日常に
溢れるさまざまな音。


それは
私たちのからだに
常に降りそそいでいる。






初台から新宿まで
歩くとすると


なりやまない
車の音。


ちいさな
秋の虫の音。


酔っぱらいの奇声。


ホームレスの
おじさんが
寝返りをうつ音。


路地裏に響く
誰かが
お風呂に入っている
水と桶の音。



知らない町で
耳を澄ますと


いろんな音が
きこえてきて


さまざまな記憶が
ひっぱりだされ


すこし
つかれる。




四谷三丁目に
ついた時


知り合いの店の
前を通ると
聞き覚えのある
あたたかい声。



隠れ家につくと
急に
眠くなる。


ちいさな店の
なりやまない
冷蔵庫の音。


換気扇から
きこえてきてくる
止まない雨の音。



自分のつくりだした
空間の音を聴くと


きゅうに
ねむたくなった。




たとえば
お母さんのお腹のなかは
こんな音が
するのかもしれない。




経験と記憶。



印象主義と言われる
エリックサティの音楽。


サティの記憶や経験が
音楽のなかに
まるごと引っ越しされている



としたら
かなり
やっかいなひとだな。



思う。



でも
この人は
嘘つきではないな。



この世に溢れる
さまざまな音たちは


すてきな
調和のとれた音


ばっかりじゃ
ないもんね。





正直でありたい。


正直で
いすぎると
変人とか
やっかいとか
言われてしまう。



エリックサティの
作曲した曲に



あなたがほしい。


という
ワルツがある。


どこまでも
うつくしく。


調和のとれた
すてきな曲。




たった
ひとりだけ
サティが愛した
女性がいるらしい。


サティは
何百通も恋文を
書いて送ったそうだ。


何百通(笑)


んー。


やっぱり。


サティは正直者
なんだ(笑)



そう
思って聴くと
なんだかすべてが
愛らしい。



調和のとれなていない
この世の中で


調和のとれたものが
輝く瞬間。


そこに
人は希望を
見つける。