妖怪。

神保町で
働いていた頃


トトロに似た
変なおじさんがいた。


わたしの
顔をみるたびに


おまえは
バカだから
好きなことやれ。



言う。



そのおじさんは
プロレタリア文学居酒屋で


いつも
焼酎を舐めるように
呑んでいた。


たぶん
はたらいていない。


結婚も
していない。


お金もない。




でも
とても
満ち足りた
おだやかな目をしている。


いろんなことを
知っていて
わかっているような。


そして
たくさんのひとから
愛されている。


わたしも
トトロのおじさんが
大好きだ。





世の中の常識なんてものは
なんの意味もなくて


人間が
ずっともちつづける
背中あわせのさびしさに
負けないこと。


たぶん
人間が生きる意味は
そこにある。


だれかと
手をつなぐことは
本当の意味での
あたたかさではなく。


ちゃんと
自分自身と
死ぬまで消えない
さびしさと
たたかうこと。


酒を呑んで
まぎらわす
さみしさ。


誰かと
手をつないで
まぎらわす
さみしさ。


でも
やっぱり
さみしさを自分で
癒すことが
できなければ


ちゃんと
本当の意味での
満ち足りた世界は
見えない気がする。


そして
愛情というものを
与えるつよさを
持てない。




最近
トトロのおじさんは
たまに
隠れ家にくる。



おまえも
やっと
いい女になってきた。




つぶやくように
言われたとき。


なんだか
ちょっと
うれしかった。




わたしだって
トトロのおじさんと
一緒で
何にももってない(笑)


でも
どうにか
こうにか
たたかいながら
生きている。



帰り際に
トトロのおじさんは


わたしの手を握って



のたうちまわれ。




言って
千鳥足で
消えていった。




この世界には
妖怪がたくさんいる。


でも
トトロのおじさんも
人間。


人間て
おもしろい。


人間がすきだな。