真夜中に
友達の家に行ったら


ふたりは
部屋を真っ暗にして
グレングールドの
映画を観ていた。


もう後半に
さしかかっていて


グレングールドは
生きて行くことに
苦しみもがいていた。


ピアニストだって
ひとりの人間だ。


叶わぬ恋をしたり
病気に襲われる。


グレングールドの
バッハの演奏を聴くと


研ぎ澄まされたような
祈りにも似たような
きもちになる。


なにかを
夢中に追いかける
まるで子どものような
ひたむきな愛と
きよらかさ。


人間は
いつまでたっても
人間なのかな。


と、時々
思う。


さなぎが
うつくしい蝶になるように


もし
努力でなにか劇的に
変われるのだとしたら


グレングールドも
苦しまずにすんだのかな。