ものもちについて。

トースターが
壊れた。


ひとりぐらしを
していたころから


つかっていたから


もう10年以上
一緒にいた。



タイマーをまわしても
あったかくならない
トースター。


機能がなくなったら
すてなければならない。




世田谷のちいさい
アパートの冷蔵庫の上に
いた姿。


狛江の風呂なし
アパートの夕日に染まる
台所の窓にいた姿。


そして
隠れ家にきて


お客さまの食べるパンを
毎日毎日
たくさん
焼いてくれた
トースター。



ありがとうよ。
トースター。




思う。




ものもちがよい。



よく人に言われる。



穴のあいたエプロンや
よれよれのシャツも
なかなか
捨てられない。


物語をつくるように
一緒に生きてゆく。


すべてのものに
そんな感覚を
おぼえる。




だから
日に日に
よれよれになってゆく


自分のからだも
仕方ないと
思っている。


白髪もシワも。
ゆるむ体型も(笑)


いいかんじに
かわいらしい
おばさんやおばあさんに
なれたらいい。


しわしわの手も
一生懸命
仕事をした勲章なのだ。



そして
トースターのように
私のからだも
機能を終える日が
やってくる。



おなじなのだ。


人間だけが
特別のような顔をして


かんたんに
ものをすてる時代には
違和感をおぼえる。


つかいすて
つかいすて。


そろそろ
欲望にふりまわされる
経済のしくみに
ピリオドをうたなくては


ぜんぶ
壊れてしまう。


自然の原理にあわせて
清貧に生きることこそ


想像力と創造力を
そだてることに


気がつかなければ
ならない。



ウンともスンとも
言わない


トースターに。


清々しさを
おぼえる。



おつかれ!


ありがとうね。


こんな風に
やりきった感満載で
死ねたなら


さわやかだろうな。