お父さん。

お父さんにもらった
文学全集を
隠れ家に
運んできた。


小さなころ
お父さんは


背が高くて
スーツがかっこよくて


私の自慢だった。



高校生の頃
通学の駅のホームでも


なんて
すてきな
おじさんなんだ。



遠くから
見ていた。



話したことは
あまりない。


というか
ちゃんと向き合って
話したということが
記憶にない。


そして
わたしは


お父さんのいうことを
ひとつも聞かず
大人になった。


家出をして
反抗して
口をきかなかった。


お父さんは
自分で会社をしていて


毎日毎日
自分の仕事と向き合い
努力をおしまず
くるしくても
けして
あきらめない人だった。


その背中を見て
育ったわたしは


お父さんのことを
思い出すだけで


ちょっと
泣きそうになる。


まだ
生きてるし


まだ
会社をやっている。


彼の
戦いつづける姿は
変わらない。


彼の稼いだお金で
ここまで大きくなった
今の自分の不甲斐なさ。


大きくしてもらった
ありがたさ。



古い
文学全集を
見るたびに


お父さんも夢を持った
若い青年だったんだな。



思って


胸がきゅうと
ちぢむ。


お父さんの
大切な人生を
私のためにも
使ってもらったんだよな。


と。


思うと
やっぱり
泣けてくるんだな。