秘めごと。
二十歳すぎで
神保町のタンゴ喫茶に
恋をした。
ただ
ただ
そのお店が好きで
近づきたくて
アルゼンチンタンゴ
という音楽に
深く深く
のめり込むことになる。
浴びるように
タンゴを聴き
古いレコードを集め
蓄音機まで買った。
あれから
20年がたって
恋は冷め
やっと
冷静にアルゼンチンタンゴを
聴けるようになってきた。
あらためて
聴くと
ずいぶんと
尖った美意識をもった
音楽であり
ずいぶんと
乱れた感情を振り回す
音楽だなあ。
と
思う。
でも
それが。
人間らしくて
愛おしい音楽。
ただ
もうやっぱり
疲れてしまうから
最近は
あんまり
聴けないでいる。
もう
無邪気に
恋は出来ないくらい
私は
欠乏感を
失っているのだ。
ただ
この一枚は別物で。
大貫妙子さんの
抑制の効いた表現が
上手くアルゼンチンタンゴを
抱いているような
安定感。
秘める
うつくしさ。
情熱の
チラリズム。
大人のための
和製タンゴの美意識としては
これが
いちばんなんじゃないかな。
うつくし。